新しく保険診療に導入されることが決まったエンドクラウンとは
2024年、久しぶりに保険診療の大幅な改定が行われました。 改定が行われると新しい治療技術が導入されるのですが、この度の改定では新しい被せ物が導入されています。 それはエンドクラウンという被せ物です。
エンドクラウンとはどのような被せ物なのでしょうか。 今回は、エンドクラウンという新しい被せ物について解説します。
CAD/CAM冠(キャドキャムかん)について
エンドクラウンについて解説するには、まずCAD/CAM冠についてのお話が必要です。CAD/CAM冠については、医療連携施設である町田歯科・矯正歯科のCAD/CAM冠とジルコニアクラウンのコラムでも詳しく解説しておりますので、興味のある方は、併せてご参照ください。
手作業の時代
CAD/CAM冠が登場するまでの被せ物は、歯科技工士さんがロストワックス法で作っていました。
この方法では、まず歯型をとって歯の模型を作ります。この模型に溶かしたワックス(ろう)を盛り付け、被せ物の形にします。
次にワックスで作られた被せ物を石膏の中に埋め込み、焼いていきます。そしてワックスが溶けてなくなったところに溶かした金属を流し込み、金属製の被せ物にします。
今までは、このように一つ一つの被せ物を手作業で作っていたのです。
CAD/CAM冠(キャドキャムかん)とは
CAD/CAMはComputer Aided Design/Computer Aided Manufacturingの略で、CAD/CAM冠とはコンピューターで設計し、専用の工作機械で製作した被せ物のことです。
CAD/CAM冠では、従来の方法のように熟練した歯科技工士さんの手作業に頼ることがありません。 CAD/CAM冠は、当初はセラミッククラウンだけでしたが、10年ほど前に保険診療にプラスチックタイプが導入されて以来、普及が進んでいます。
エンドクラウンとは?
歯冠(しかん:歯茎の上に出ている歯の部分)が大きく失われた歯に被せ物を入れる場合、ポスト、もしくはコアとよばれる芯を立てて、その上に被せ物を装着していました。 要するに二重構造だったわけです。
エンドクラウンは、ポストと被せ物を一体化した被せ物です。 CAD/CAM冠の設計技術、製造技術の進歩により、ポストと被せ物の一体化が可能になり、2000年代初頭から欧米諸国で登場しました。
エンドクラウンの材料
エンドクラウンは、二ケイ酸リチウムガラスというガラス系のセラミック材料や、コンポジットレジンというプラスチック系の材料が使われることが多く、 一般的には、自費診療では前者、この度保険診療に導入される予定のタイプでは後者の材料というように使い分けられています。
保険診療のエンドクラウン
全ての歯にエンドクラウンが認められるわけではありません。 この度の改定では、大臼歯(だいきゅうし)という前から6番目の歯と7番目の歯にだけ認められるようです。
保険診療のエンドクラウンは、上述のようにコンポジットレジンというプラスチック系の材料が使用されます。
エンドクラウンのメリット
歯を削る量が少ない
エンドクラウンはポストと一体化されていますので、一般的な被せ物よりも外れにくくなります。 一般的な被せ物は、外れにくくするために、歯の周りを削り、この部分で接着力を保ちます。
エンドクラウンは外れにくいので、歯の周りを広く削る必要がありません。 エンドクラウンは歯を削る量を少なく抑えられるので、歯に優しいというメリットがあります。
治療時間が短い
削った後の歯の形を比べてみると、一般的なCAD/CAM冠よりもエンドクラウンはシンプルです。 このため、歯を削るためにかかる時間が少なくて済むので、治療時間も短くなります。
通院回数が減らせる
エンドクラウンにはポストの部分がすでに付いています。 ポストを歯にセットする必要がないので、ポストの製作に必要な工程がなく、その分通院の回数も減らせます。
噛み合わせがきつくても入れやすい
一般的に、被せ物は歯の外側に装着するため、歯肉より上に出ている部分には、ある程度の高さが必要になってきます。
ただ、噛み合わせがきついと、この高さが得られないので、外れやすくなってしまうのです。
その点、エンドクラウンは内側のポストの部分で支えられるので、噛み合わせがきつく、高さが得られにくい歯でも入れやすくなります。 これもエンドクラウンのメリットの一つです。
エンドクラウンのデメリット
メリットの多いエンドクラウンですが、デメリットがないわけではありません。
生きている歯には使えない
エンドクラウンは神経を取り除いた歯(失活歯:しっかつし)にしか使えません。 神経が生きている歯(生活歯:せいかつし)には、一般的な被せ物を使うことになります。
奥歯のみに適応
先ほどもお伝えしたように、エンドクラウンは、基本的に奥歯に使う被せ物です。 神経を取り除いた歯であっても、前歯の治療には使えません。
審美性の問題
エンドクラウンの縁は、歯冠部分の途中にあるので、歯と被せ物の縁が見えるようになります。
通常のCAD/CAM冠の縁は、歯肉の縁あたりにあるので、歯と被せ物の縁が見えることはありません。見えやすい箇所の治療にエンドクラウンを使うと、縁が見えるため、審美性が良いとは言いにくいところです。
歯の向きに制限される
歯並びが悪い場合、歯の向きが元々傾いていることがあり、被せ物を入れる方向と、歯の方向が合わなくなってしまうことがあります。
このようなケースでは、被せ物を入れるのが難しくなりますが、ポストと被せ物が分かれている従来型の被せ物ならば、ポストの向きと被せ物の向きをある程度補正して、合わせることもできます。
ところが、エンドクラウンの場合は、被せ物自体にポストがついているため、補正ができず、歯の向きが良くない場合は、エンドクラウンで治せない可能性が高くなります。
まとめ
今回は、新しく保険診療に導入されたエンドクラウンについてお話ししました。 エンドクラウンはCAD/CAM冠の一つですが、ポストと被せ物が一体化しているのが特徴です。
エンドクラウンは歯を削る量が少なく、通院回数も少ないといったメリットがありますが、全ての歯に使えるわけではありません。今回のコラムをお読みになって、エンドクラウンにご興味を持たれた方は、成増さくら歯科にぜひご相談ください。